「チリも積もれば・・・」の恐怖

〇邪気の侵入 
 チリも積もれば・・・とは良く聞く話です。当たり前の話ですが、私はその恐怖を毎日実感しています。 何の話かと言えば、鍼灸を通じて患者さんの邪気が私の中に入ってくるのです。「何を突拍子もないオカルトな話を・・・」とお思いでしょうが、これは事実です。私はこの事実を身体で感じ、認めざるを得なくなったとき、恐怖におののきました。「鍼灸をやっていけるのか・・・」という不安に駆られました。

〇邪気は鍼灸のみではない
 私が鍼灸を始めた時、ある人から「鍼灸は患者さんの邪気を受けるから、それを跳ね返すだけの功夫を先に身につけなければならない。鍼灸の技術はその次で良い」と言われました。私はそれを聞いて「何を悠長なことを言っているのだ。そんなことあるわけないだろ。そんなことがあるのならば、その気とやらを味わってみたいものだ。」と思いました。その2年後、生理痛・月経トラブル(激痛ストレス・イライラ型)に悩む患者さんの足三里というツボに刺鍼した直後、吐き気を催す経験をしました。また、同時期にマッサージを仕事としている友達から「マッサージをしていると、何とも言えない独特のだるさが身体に残る。この感覚は他の仕事では感じないイヤなものだ。従業員同士で不思議がっている」という話を聞きました。その頃から「邪気を受ける」ということに興味を抱くようになりました。

〇否定したくてもできなくなる
 その後、患者さんも徐々に着いて来るようになると「邪気を受ける」ことが日常的になりました。特に、エネルギー旺盛な実証傾向(生理痛・月経トラブルではストレス・イライラ型)の患者さんに鍼を打つと、数時間後に胃がムカムカすることがありました。その頃は「実証の人からのみ邪気を受ける」と思っており、患者さんも虚証の方が多かったため、楽観的に考えていました。しかし、年々身体が弱くなる自分を否定できなくなりました。「40近くなったらこんなものだろ」「元々虚弱体質だから・・・」そんな風に考えて、ごまかしてきましたが、年を経るに従ってますますひどくなり、真正面から向き合わざるを得なくなりました。

〇下痢や腰の不調・不眠などが日常化
 以前の私は、こんな時は必ず下痢をしました→@ウィンドブレーカー上下を着ないで冷房電車に乗るAコーヒー・お茶・紅茶・炭酸飲料・牛乳を飲む(温かくしてもダメ)B上半身に力を入れたり、腸を捻る運動をするC将来を悲観するD常温以下の水分を飲む(水道水などの常温でもダメなので、ホット麦茶を水筒に入れて持ち歩った)など・・・。そして、こんな時は腰の不調が発症しました→@急に温度が下がった日A下痢をした日B上半身に力を入れる運動をした後など・・・。他にも、不眠・足が萎える・対人恐怖など、生理痛・月経トラブルでいえば、吐き気+ストレス・イライラ+冷え性の症状、現代医学でいえば自律神経ともいえる症状が、日常的にあらわれるようになりました。体調不良で長期間鍼灸施術を休むと、それらの症状が劇的に改善しました。「精神的なものだ」とのご指摘を頂きそうですが、私は鍼灸施術をすることが大好きです。鍼灸施術をしているときには心から幸せを感じますから、精神的な要因ではありません。

〇自覚できる症状の方が浅い
 鍼灸施術をした直後に不快感を自覚するのは、実証の人(生理痛・月経トラブルではストレス・イライラ型)に施術したときのみです。それなのに、このような不調に陥るのは、例え自覚しなくても徐々に(分からないうちに)身体の中にたまっていると思われます。その証拠に、最も困るのが極度の冷えです。私は真夏でも1人でいるときには、冷房をつけませんでした。否、つけられなかったのです。特に寝入りばなに冷房のスイッチを入れると、翌日は百発百中で下痢しました。当然、真冬もたいへんでした。なぜこうなるかというと、生理痛・月経トラブルでは、冷え性の患者さんが多いために、寒邪の影響を受けていると思われます。つまり、患者さんの寒邪が私の身体に入ってくるのです。しかし、徐々に少しずつ入ってくるため、自覚がありません。分からない位の微量の寒邪が、チリのように積もった結果、このような症状が出たと思われます。実は、すぐに分かる症状の方が浅い所でとどまる傾向にあり、気づかない症状の方は奥深くに侵入しているようです。

〇臨終の責め苦に喘ぐ施術者
 こうした傾向は、鍼灸を効かすことができるようになればなるほど顕著になります。ツボをさわったり、脈を取るだけで腸がゴロゴロなることもあります。つまり、鍼灸施術で患者さんが増えれば増えるほど、やればやるほど施術者は自分の寿命を縮めていくのです。ちまたで聞くところの「元々虚弱だった人が鍼灸をやって健康になった。皆さんも自分のように健康になって欲しいから、鍼灸をやって国民医療に貢献している」などというありきたりの美談は、ウソか鈍感な人か、または先天的に生命力旺盛な人です。鍼灸の優秀性をアピールして、患者さんを増やす目的で作り話をしている人もいますが、現実は小説のようにはいきません。「臨終の責め苦に喘ぐ施術者」という話を聞いたことがありますが、あり得る話です。

〇良い意味での「チリも積もれば・・・」
 良い意味での「チリも積もれば・・・」も毎日実感しています。それは、生命力を養う鍛錬によるものです。運動の内容は秘密ですが、鍼灸で生命力を損なった時、取り返すためにはこれしかありません。薄皮を少しずつ張り付けていくように、鍼灸施術で消耗した生命力を補っていくのです。こうした良い意味での「チリも積もれば」状態も味わっています。鍛錬方法をお教えしても良いのですが、辛く我慢が必要な鍛錬方法のため、せっぱ詰まった人以外は続きません。江戸時代のお坊さんの話によると「1000人のうち1人くらいしか続かない」と言っていますから、お教えしても無駄でしょう。最近はこの東洋的鍛錬法により、寒邪も吐き出すことができるようになりました。これも良い意味での「チリも積もれば」の成果です。

〇悪循環からの脱出
 ここで述べたことは「チリも積もれば・・・」の恐怖の一部です。身体で実感している好調や不調は、氷山の一角なのです。「この位なら影響ないから大丈夫」という発想は実に恐ろしいことです。10回や20回ならば問題なくても、それが日常的になってしまってら、千回・1万回と繰り返すことになりますから、分からないうちに身体の中に蓄積していき、気づいたときには手遅れとなることもあります。しかも、不摂生が原因だということは最後まで気づきません。生理痛・月経トラブルの皆さんも「何で私だけが・・・」などとお思いでしょうが、実は自分自身で追い込んでいたのです(もちろん、全員ではありません)。皆さん、そろそろ生活習慣を考え直す時が来ました。毎日、良い意味での「チリも積もれば」を実践している人はほとんどいないでしょう。悪い意味での「チリも積もれば」がほとんどだと思います。早く悪循環から抜け出しましょう。

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