年を重ねても伸びる力

〇私は生命力が好きだ。自分が生まれつき生命力が弱いので、生命力旺盛な人を見ると憧れる。憧れの人物の一人として八神純子がいる。「顔が好き」とか「歌が好き」とかいうのではない。”生命力あふれる声”に神がかりなものを感じていた。

〇彼女がテレビで歌った中で、「あ〜かったるい、ようやく声が出た」と思わせるシーンを見たことがなかった。私は岩崎宏美も好きだが、彼女でさえ「よ〜やく声を出した」と思わせる場面を何度も見ている。動画をみると、八神純子と岩崎宏美が一緒に歌っている場面(20年以上前)があるが、岩崎の方が位負け(くらいまけ)している。八神は渡辺真知子のブルー(≠Mr.ブルー)もレコーディングしているが、渡辺が完全燃焼する場面でも、八神の声はパワーが有り余っていて不完全燃焼だ。彼女の生命力はブラックホールか?と思っていた。

〇しかし、最近、NHKで放送された内容をみると、「パープルタウン」で無理に声を出しているシーンを見てしまった。八神が苦しそうに声を出しているシーンを(テレビでは)初めて見たような気がする。ショックだった。ようやく八神も人間レベルまで落ちてきたようだ。

〇年を重ねると、誰でもパワーが落ちてくる。テクニックはついてくるが、声の底力(そこぢから)は落ちてくる。それは、八神でも岩崎でも同様だ。声の力だけではなく、筋力や持久力なども例外ではない。じゃあ、鍼や灸を浸透させる力はどうか?これは年をとっても落ちにくい方法が2000年以上前に編み出されている。古人はすごいことを考えたものだ。どういう方法かといえば、下っ肚(したっぱら)から力を出して、骨(腎)で鍼を刺す(灸を据える)のだ。

〇最近の西洋科学的トレーニングは、すごい勢いで進歩している。深層筋を鍛える必要性に気づいたのだから・・・。しかし、それでも所詮は筋肉(肝)までだ。その下の骨(腎)までは到達していない。これは何も「身体に適度な負荷を加えれば、骨も強くなる」などという西洋科学的で単純なことを述べているのではない。もっと深遠な話をしている。東洋では、2000年前にすでに骨(腎)を鍛える方法が存在していた。そして、今もその一部が伝承されている。鍼灸師ならば誰でも一度は聞いたことがある鍛錬法だが、それを真面目に追及している鍼灸師には数人しか会った事がない(拳法家でも数人会ったことがある)。ほとんどの鍼灸師は”オカルトなもの”として、やらずに一笑に付してしまうか、やり始めたとしてもあまりにもとらえどころがないことと、辛い鍛錬のわりには得るものが少ないために、途中で投げ出して知識や小手先のテクニックに走ることが多い。

〇20年くらい前の東洋医学雑誌を見ると、東洋的鍛錬法の大家(中国人)が取材に応じていた。「最近の中国では、鍼灸医師ですら伝統的鍛錬法を修めない。知識と小手先のテクニックばかりに頼ろうとする。昔日の鍼灸医師は拳法などを修めた。身体の内側の力を鍛えないと、鍼や灸を通して患者の身体深くまで浸透力を到達させられない。枝葉末節ばかり大きくなり、根がなくなる。」といった内容だった。中国は東洋医学の本場・・・というイメージがあったが、結局は”人による”ということだろう。

〇私は大した腕ではないが、鍼や灸の威力を患者さんの深い所まで達する力(浸透力)だけは、恥ずかしくないと自負している。実はこの浸透力(下っ肚の力)がついてきた頃から、”不自然に排卵や月経をコントロールする療法”とぶつかり合いが生じるようになったのだ。このことは、何も自慢にはならない。なぜならば、ほかの鍼灸師は全くやっていない人が90%、趣味や健康法の範疇でやっている人が9%なのだから、素質のない私でも人生かけてやれば、99%の人を追い抜けることは明らかだ(あくまでも浸透力に限定した場合の話、総合力ではない)。多くの情報が飛び交い、容易に知識を得て満足できる環境の中で、こんなこと(地味で苦しくわけの分からないこと)に没頭できるのは、私くらい単純でないと無理なのかもしれない。

〇この鍛錬法は人の性格をも変える。普通の鍼灸院ならば、きれい事を並べ立て「鍼はこ〜んなに効くから、どんどんいらっしゃい」と宣伝するのが普通だ。しかし、鍛錬法を始めてから数年経った頃から、嘘をつくのがいやになるし、自分を良く見せようとする意識も少なくなった。患者さんを増やそうとする意識も薄らいくるので、新患の方(”不自然に排卵や月経をコントロールする療法”を受けている方)についてはお断りすることも多くなった。傍から見たら「やる気がないんじゃないか、あいつは?」と思うらしく、実に困ったものなのである。たまにマメにやっていることといえば、HPをいじくることくらいだ(本当にマメか?)。こんなことを書きながら、「あ〜また出張施術専門にしようかな、掃除するの面倒だな」などと考えている始末だ。昔の人が「この鍛錬法は道を修める不二の法門となる」といっているが、本当にそうなのかどうか分からないが、欲が少なくなってくることだけは確かだ。

〇鍛錬法を実践している鍼灸師はゼロに等しいので、意識を共有する機会がなく、「自分の感じていることは独りよがりの絵空事なのか?」と、今年のはじめ頃まで悩んでいたが、4月になって同じことを考えている人に会う機会に恵まれた。彼も同じことをやっていた。彼は太い中国鍼でブスブス刺すスタイルで、私は細い鍼で少し刺すやり方なので、傍から見たら正反対だが、実は根っこの所では同じことをやっていた。彼も私と同じくオカルトな発想には興味がなく、「テレビで放送する気功パワーなどとは一線を画したい」と言っていたが、「鍛えないと鍼が効かなくなるんだよね」という認識では一致していた。

〇これからは、ますます”年を重ねても伸びる力”を追求していかなければならない。患者さんは高いお金を出して施術を受けてくださるのだから、いい加減な鍼灸施術をやっては申し訳ないと思っている。今後はより一層、精進していかなければならないと思う次第である。

(2010.11記)

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