子作りと生態系-鍼灸よもやま話

〇施術の推移
当方は、月経トラブル専門と名乗ってきました。今でもそうです。ですから、当初は子作りを目標にして施術していたわけではありません。月経トラブルを改善していくうちに、お子さんを授かった・・・というのが実際のところです。一人の患者さんにおいて成功すると、紹介で他の患者さんがやって来ます。そうしたことを少しずつ重ねていくうちに、「月経トラブルは全くない、でもお子さんに恵まれない」という患者さんも来て下さるようになりました。「月経周期も子宮も何の問題もない、ご主人様においても全くの健康体・・・なのにどうして?」という疑問は当然起こります。

〇東洋医学的考え方
ここで視点を変えて、東洋医学的に考えてみるとどうでしょう。結論としては、完全健康体の方はほとんど存在せず、虚や実などの体質的弱点が必ずあります。その弱点のうち、余分なところを切り捨てたり、足りないところを補ったりすることで、生命力(=生殖能力)が高まり、お子さんができやすくなる・・・というのが基本的な(教科書的な)東洋医学の考え方です。

〇私見
昔の人は、現代人と比べて栄養失調状態であったにも関わらず、”子だくさん”な家庭が当たり前でした。それが、高度経済成長期などの文明の高度化と併行して、子供が授かりにくくなり、大変なご苦労を強いられる方が多くみられます。なぜでしょうか?「昔は出産年齢が低かったから、妊孕力も高かった」というのも一つの原因でしょう。しかし、どうやらそれだけではないように思います。根本的な原因のひとつとして、現代人は文明の発達とともに体内の生態系が乱れ、本来の生命力の機能を発揮できないからだと思います。

〇本来の生態系
私は過敏体質のため、患者さんの人数が許容範囲を超えると体調不良になります。そんなときは、川越市内の河川敷をよく散歩します。河川敷でも人間が手を加えた(人工的な)自然には魅力を感じなくて、草ボウボウで人間があまり手を加えていない場所へ行き、リフレッシュしています。そこは私にとっての秘密の場所であり、さまざまな動物を見ることができます。2009年の5月には、間近でイタチを見ました。キジのつがいやカワセミも見ます。2009年の12月には、野生のキツネも目撃しました。その場所から数十メートル移動すると、人工的にきれいに整った場所がありますが、その場所では野生の動物はほとんど見ていません。人間にとって見栄えの良い場所が、動物にとっても居心地が良いとは限らないのでしょう。もっといえば、人間にとって見栄えを良くするために、本来の自然の生態系を壊してしまったのではないでしょうか?

〇体内の生態系
戦前〜戦後にかけては、「食べ物も質素で、医療などは満足に受けられない」といった人が多数派だったと聞いています。つまり、現代科学的な視点で考えると、慢性的な栄養失調状態で、しかも、現代医学的な医療の力は”0”に近いですから、病気になっても半ば放置状態で自然治癒力に頼っていたわけです。そんな状態ですから、男女ともに生命力が衰え、妊孕力(にんようりょく)も落ちているはずなのに、子だくさんの家庭が多かったのはなぜでしょうか?答えは”体内の生態系”の違い・・・だと私は思います。

〇子作りの問題だけではない
環境ホルモンの影響なども、まことしやかにいわれています。社会的地位のある人がそのようなことをいうと、確かに納得させられます。しかし、こうした現象は子作りに限ったわけではありません。子供のアトピーや生活習慣病、心療内科系の疾患etcの増加と比例して起きている現象です。子作りだけならば、環境ホルモンで片付くかもしれませんが、様々な新しい形態の身体の不調は、環境ホルモンのみでは説明できません。これらは、現代人の”体内の生態系の狂い”から来ているのだと思います。コンクリートの中で暮らし、人工的に手を加えすぎた食物を常食とし(しかも飽食)、夜は午前様(お日様とともに生活をしない)、仕事は神経労働(運動不足)・・・では、生態系が整う土壌は見る影もありません。”空気”や”土壌”ひとつとってみても、もはや壊れた生態系の一部ですから、そうした環境で採れる農作物でさえ、昔に比べたら生命力の落ちた食べ物と成り下がっているわけです。それに輪をかけて不自然に手を加えるわけですから、生命力を失った食物を日常的に口にしているのが我々現代人なのです。人間が吸う空気も飲み水も生命力を失っていますから、体内の生態系も活性化できません。こうした現象は、皆さんが悪いわけではありません。社会がそのようになってしまったのです。そして、こうした現象と比例するかのように、子供が欲しくてもできない・生活習慣病・心療内科系疾患の増加・・・などの様々な問題が起こっているのです。つまり、生態系の狂い・生命力の低下です。戦前〜戦後に比べて、こんなにも現代医療が発達しているのに、生態系や生命力についていえば無力といわざるを得ません。

〇根本的解決方法
それでは、どうしたら根本的に改善されるのでしょうか?理屈からいえば、答えは簡単です。昔の生活に戻せばよいのです。しかし、実際には無理です。戻せるわけがありません。では、どうしたら良いのでしょうか?まず、できることから体内の生態系を整えるしかありません。そのためには、まずは生活習慣の改善です。生活習慣の改善ひとつで、体内の生態系は良い方向に変わります。逆に不摂生をしている人は、悪い方向に変わります。「生活習慣病の話ではないぞ、子づくりの話だぞ」とお叱りを受けそうですが、それらは皆、体内の生態系が深く関わっているため、縦割りではなく”横つながり”なのです。

〇東洋医学の目標
東洋医学の目標は生態系を整え、生命力を活性化することに他なりません。中国の2000前の古典には、人間の生命力と自然との関わり方について、深く研究された跡が伺えます。「無理な欲望を持たないこと、肉体をほどよく運動させること、食事は質素に、悪い道楽にはおぼれないこと、自然のままの生活をすること・・・」などが記されています。こうした身体内部のことが分かる人たちは、実はこんなことを考えていたのか・・・と思うと感無量です。地球の生態系の破壊が叫ばれている昨今、人間の体内の生態系についても深く考える必要があるのではないでしょうか?

〇土台づくりの大切さ
筆者は、西洋科学的方法を全面的に否定しているわけではありません。ご夫婦でよく相談し、悔いの残らない不妊治療を受けることが最善だと思うからです。西洋科学的方法と東洋的方法を併用するにしても、東洋的方法単独で行うにしても、体内の生態系を整え、生命力を活性化した状態にした方が良いことはいうまでもありません。つまり、土台づくりです。生活習慣を改善して生態系を整え、充分な土台づくりをしておくことが良いのは当然です。

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