〇「鍼は効く」とか「鍼は効かない」などという言い方を巷(ちまた)では効きます。しかし、この考え方は間違っています。正確には「誰の鍼は効く」「誰の鍼は効かない」という言い方が正しいのです。なぜならば、人によって技量も、効き方も、スタイルも全く違うからです。
〇この考え方は、ボクシングスタイルに例えると分かりやすいかもしれません。例えば、輪島功一という世界チャンピオンがいました。彼は前に出るタイプで左右のストレートで攻めて、世界を制しました。それに対して、ガッツ石松という世界チャンピオンはロープに下がっておいて、相手が仕留めに来たところにカウンターを合わせるなどの、どちらかというと後の先のようなスタイルをとっていたようです。この二人のチャンピオンは、傍から見たら同じ「ボクシングのチャンピオン」ですが、実質的には全く違うスタイルなのです。
〇鍼はボクシングスタイルに似ています。人によって全く違います。ただ一点共通することは、鍼を道具として使うことです。鍼の世界にも会派が存在し、その会派に属する人は同じような施術方法をしますが、やはり実質的にはその人にしかできない技術を有するようにならない限り、本当の意味で効かせることはできません。会派の方法を真似ているだけならば、それはモノマネのようなものであり、ガチンコ勝負では役に立ちません。
〇当方へお来しになる患者さんは、紹介またはHPを見て来てくださる方がほとんどのため、ある程度、納得した上で予約していただけます。しかし、中には電話帳を見て問い合わせをしてくる方もいます。先日も「喘息のお灸をやっていますか?」という問い合わせがありました。婦人系患者さんからの紹介で気管支系統の患者さんもいるため、「鍼を使うか灸を使うか分かりませんが、対応はしています」とお答えしたところ、「鍼灸院だから、私の実家近くの鍼灸院でやっていた喘息のお灸と同じですよね?」と聞いてきました。「鍼灸は人によって、全くスタイルが違ういます」と答えたところ「じゃあ、結構です」と言われ、電話を切られました。
〇現代医学では、”同じ症状であれば同じ薬を投与する”などの方法を採ることもあると思うので、ある程度どこの診療所へ行っても同じような治療をするのかもしれません。しかし、鍼灸は人によって全くスタイルが違います。上っ面(うわっつら)は喘息であっても、その根っこがどこにあるのかを突き止め、次は鍼にするか灸にするか、両方使うかを決め、その後、ツボを決め、鍼の深さ、太さ、灸の太さ、何壮据えるか、刺し方、手技、力の出し方・・・といったところまで追求していくと、人によって全く違うスタイルになっていきます。逆に全く違うスタイルにならない限り(自分独特の手法を身につけない限り)、本当の意味で効かせることはできません。ただ、鍼を刺すだけ、灸を据えるだけならば、誰でもできます。しかし、生命力を動かすのは、たやすいことではありません。生命力を動かそうと四苦八苦しているうちに、その人独自の気づきがあり、その積み重ねで効かせられるようになるわけです。ですから、「〇〇鍼灸院と同じようにやってくれ」とするリクエスト自体が無理な要求なのです。ガッツ石松に「輪島と同じスタイルで戦ってくれ」といったら、戦えなくなってしまいます。
〇これは漢方についてもいえるそうです(特に煎じ薬の場合)。人によって漢方の成分を微妙にいじくるため、傍からみたら同じでも、中身は全く違うそうです。「漢方は効く」「漢方は効かない」というように、”漢方”で一括(ひとくく)りにすること自体が間違っているということでしょう。
〇東洋的なものは、西洋的なもののように”みんな同じ”という考え方は当てはまりません。そのため、教科書どおりに施術しても、効かないことが多くあります。特に鍼は半分は学問的要素がありますが、半分はフィットネス要素が強い技術ですからなおさらです。傍から見たら同じでも、中身は個々人によってスタイルが違い、自分のスタイルを身につけなければ使い物にならない・・・それが東洋的なものの難しいところであり、楽しさでもありましょう。
(2010.11記)
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