先憂後楽

〇今回の地震を通して先憂後楽という言葉を思い出した。私のような一般庶民は、人間社会の中では下々(しもじも)の者に該当する。しかし、身体を1つの国に例えれば、我々一人ひとりが五臓六腑を治める領主である。領主である私たちが「今、楽ならば後のことなどどうでもいいや」と考えるならば、私たちの心身は衰退するに決まっている。逆に、先憂後楽を実践できるのであれば、五臓六腑が災害に見舞われようとも、被害を最小限に食い止めることが可能である。このことは、何も西洋医学的病名にビクビクしたり、健康オタクになれ・・・ということではない。最も大切なことは、養生の実践である。

〇先日、日本人が何百年も前に書いた健康本を読んだ。その内容を見ると、「食べたくもないのに、無理矢理に胃袋に詰め込め」とする文言はひとつもない。むしろ、その逆で「胃にもたれることは絶対にいけない」「迷ったら食べるな」など、現代主流になっている欧米流詰め込み栄養学とは全然違う内容だ。

〇この時代には、健康保険や生活保護などは存在しておらず、一度病気に罹ったら死に直結するわけだから、非常にシビアかつ実践的に病気を回避する方法がとられていた。現代蔓延している西洋科学的養生法のようにのん気ではない。そう考えてみると、現代の栄養学は「たとえ病気に罹っても、薬で無理矢理に麻痺させればいいや」とする甘さの土台の上に成り立っているのではないかとさえ思えてしまう。

〇現代の医療制度の礎(いしずえ)は明治時代につくられた。欧米に追いつき追い越せ(富国強兵政策)の真っ只中につくられたらしい。兵隊が体調不良に陥ったときには、西洋薬で麻痺させる方が手っ取り早く戦線に復帰させられる・・・との軍部の威光が働いたそうだ。そのため、それまで主流であった漢方・鍼灸は一時禁止された。今でもその影響で、東洋的手法の牙はもぎ取られたままで、効いたか効かないか分からないような曖昧な技術ばかりが横行している。東日本と西日本で電気の周波数が違うことも明治時代に決められたというから、過去の政策は未来永劫にわたって国民に影響を与え続けるのだろう。

〇そこから始まって、戦後の”欧米が手本”思想も手伝って、衣食住の全てが欧米の物まねになってしまったのではないか。衣などの外見だけ真似するのであれば問題ないが、食は身体内部のことだから、欧米人の真似をすることによって大きな弊害が生じている。

〇世の中に出回っている上っ面な考え方や情報がいかに当てにならないか・・・が相撲の八百長問題や原発事故で証明されてしまった。当たり前の事を当たり前に考え、私たち一人ひとりが先憂後楽を実践する領主にならなければならないだろう。
(2011.4記)

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