陽虚(≒冷え症)の方の冬季の水分摂取

〇水分摂取については、「水分は過剰に摂っても排出されるから良い」「寒いときは温かい飲み物を摂れば温まる」といった間違った認識が蔓延(はびこ)っています。ここでは、冬季の正しい水分摂取について考えてみたいと思います。ただし、ここで述べているのは、主に陽虚(正真正銘の冷え性)の方や、気虚で水を捌けない方を対象としています。陰虚(ほてるタイプ)の方には当てはまりません。詳しくは、女性は全員が冷え症か? または間違い東洋医学 をご覧ください。

〇陰の定義
 人体は陰陽のバランスで成り立っています。陰とは、身体中の必要な水分を表わします。これを津液(しんえき)といい、五行式体表(水)(一番右の列)では、唾(つば)・液が配当されていますが、それ以外にも身体中の水分や精神的な潤いも含めたものを表します。具体的には、髪の毛の潤い・肌の潤い・目の潤い・生殖器の潤い・精神の潤い・胃の潤い(胃液の正常な分泌)・身体内部の水分・・・などです。また、水分ですから、場合によっては身体を適度に冷やす作用もあるわけです。腎虚タイプ(冷え性など)の方はこの潤いが不足しますから、肉体的にも精神的にも余裕がなくなり(五行式体表(一番右列)の「恐」)、不安定な状態になりがちです。逆に潤いが旺盛な方は、精神的にも余裕をもって生活していけます。先日、お亡くなりになったタレントも腎を患った結果、精神不安定になった、と報道されています。患った場所が腎でなかったならば、そのような結果は招かなかった可能性があります。

〇陽の定義
陽とは、身体を温める作用です。冷え性(腎陽虚=下図@) 型の人は陽が不足しますから、身体を温めることができません。そのため、五行式体表(一番右列)にあるように「寒」が襲ってくるわけです。また、胃腸機能について説明しますと、<胃=鍋><火力=腎陽(命門)>に例えられ、腎陽が不足すると火力が弱くなるため、胃=鍋を温めることができなくなり、食物消化に障害を来たします。そのため、食欲減退や過食傾向などの症状が起こり得ます。

          

〇陽の生命力減退で冷え性になる
冷え性タイプを東洋医学用語で陽虚(下図@)といいますが、実際には陰陽両虚です。これは、陰も陽も少ないのですが、陽の方が陰以上に少なくなるため、相対的に陰(冷・水)>陽(温)となるわけです。つまり、身体を冷やす成分の方が相対的に多くなるので、冷えるわけです。若い人や生命力がある方は、陽(温)を増やすことで、身体を温めることができますが、年齢を重ねたり生命力が弱くなると、陽(温)を増やすだけのエネルギーがなくなるため、陰(冷・水)を体外に排出して、陰=陽に保ち、身体を温める作用を起こそうとします。そのために、冷えるとトイレに行く回数が多くなるわけです。つまり、身体を冷やさないための防衛反応が起きているわけです。





〇陽虚(冷え症など=上図@)の方は水分を過剰摂取すると身体を冷やす
せっかく、陰(冷・水)を体外へ排出して身体を温めようとしているときに、「水分は過剰に摂っても排出されるから良い」とばかりに水分を余計に摂ったら、身体を温めることができません。身体は一層冷え込むことになり、さらに尿として体外に排出しなければならなくなります。こうした現象を冬の間いつも繰り返していると、「チリも積もれば・・・」の例えどおりの結果となり、冷えは身体の奥深くまで浸透してしまい、慢性の冷えから抜け出せなくなります。たとえ冷え性でなくても、舌が腫れぼったくて歯の跡がついているような方は、水分を代謝する機能がうまく働いていませんから、水分代謝異常を原因とする別の症状に陥る可能性が高くなります。

〇排出するためには、腎に負担がかかる
 摂りすぎた水分を体外へ排出するためには、腎→膀胱といった排尿に関する器官が余計に働かなくてはなりません。腎は生命力の根幹であり、全ての内臓(精神)の土台を担っています。膀胱も五行式体表(一番右列)において腎に属しています。水分の誤った摂取は、五行式体表にあるとおり骨・髄など屋台骨(生命力の中心部)にも悪影響します。冷え性以外の人でも、舌が腫れぼったくて歯の跡がついているような方は、たとえ冷えがなくても水分を摂りすぎているわけです。例えていうならば、仕事をしすぎてうつ症状になっている人(=腎・膀胱)に、”これでもか”と仕事を押し付けたら(過剰な水分を摂る)パンクしてしまいます。

〇食べ過ぎれば胃腸に負担がかかります。水分を飲みすぎれば腎に負担がかかります。これは当たり前の道理です。しかし、両者を比較した違いは、胃腸は負担がかかるとすぐに自覚症状としてあらわれますが、腎はある程度まで壊さないと自覚症状としてあらわれません。つまり、壊してから気づくわけです(実際には、水分の過剰摂取が原因で壊していることに気づかず、さらに壊し続けている人が大半です)。


〇こうしたことは、単なる"はり・きゅう屋"の私が言っても信じてもらえないことも多いものです。そんな皆さんは、本来の東洋医学を実践している医者や漢方薬局へ行って聞いてみると良いと思います(脈・舌・腹診をしっかりやって、証を決めて処方している所:あまり多くありませんが・・・)。例えば、真武湯証(しんぶとうしょう)などの本当の冷え性や、舌が薄白色でポチャッと腫れぼったくて、なおかつ歯の跡がついている人などは、水分を控えた方が良いのは常識です(四逆散証などは、たとえ手足が冷たくても本当の冷え性ではありません)。

〇外出先で「寒いから温かいものを摂ればよい」はその場しのぎ
寒い屋外で「寒いから温かいものを摂ればよい」とばかりに、温かいお茶などをがぶ飲みしても、その瞬間は温まるかもしれませんが、その後は冷える方向に傾きます。その結果、身体が防衛反応を発揮して、尿として体外へ出そうとします。そこでは多大な負担が腎・膀胱にかかります。人によっては小便から出し切れず、下痢として余計な水分を体外へ排出しようとすることもあります(女性の場合は下痢は少ない)。こうした下痢は早朝や朝食後に起きることか多く、腹痛は軽度であることが特徴です。
 
〇身体の防衛反応に委ねることの大切さ
上図@陽虚(冷え性)や舌が腫れぼったい方は、水分をあまり摂りたくならないのが普通です。水分を過剰に摂れば冷えに回ったり、水分代謝機能(腎→膀胱系統)に負担がかかりますから、「少ない水分でやり繰りをして、身体を守ろう」とする防衛反応が働いているです。上図B陰虚(高齢者、冷えをあまり感じないetc)の極みになった場合は、水分を控える必要はありません。むしろ、乾燥した空気の中にいることはよくありません。世間一般で言われている「水分を取らないと毒」というのは、上図Bについていっているのです。上図Bになると、免疫力が大幅に低下しますから、乾燥した空気にさらされたりすると、風邪にかかりやすくなり、それが元でたいへんなことにもなりかねませんから、「水分を摂らないと毒」という言い方は当てはまります。このタイプは、「熱を出して風邪を追い出す」という自然治癒力が働きませんから、熱は出にくく、ダラダラと不調が長びきます。ただし、一旦、熱が出るとたいへんなことになります。

〇人間は皆違うT
西洋科学的見地からみれば、上図@陽虚や上図A陰虚という概念すらなく、@もAも健康体の範疇に入れてしまいますから、水を飲みすぎて虚弱がきつくなろうが、どうでもよいわけです。上図Bの方は水分が不足すると、西洋科学的見地からみてもたいへんなことになる可能性がありますから、Bのみをターゲットにして「水分を摂らないと毒」となるわけです。しかし、東洋医学的見地からみると上図@の人が水分を摂りすぎて冷えが酷くなれば、それは大変なことですから、「水分を控えて下さい」となるわけです。この違いを分からない人は、「東洋医学は間違ったことを言っている」となるわけです。また、場合によっては水分の摂りすぎを年単位で重ねた結果、器質的な症状に陥ることも見受けられます。しかし、水分の摂りすぎが悪影響を及ぼしていることには、気づきません(場合によっては甘いものの常食よりも悪いこともあります)。

〇人間は皆違うU
「人間は皆同じだ」という考え方をしていると、上図@陽虚(冷え性)の方や、舌が腫れぼったくて歯の跡がついているような方においても、「水分は余計に摂ったほうが良い」とばかりに、自分自身の身体をいじめている現状が見受けられます。こうした傾向は、健康志向の人ほど強く、むしろ無頓着な人の方が身体の欲求に身を委ねるため、身体を傷つけなくて済む傾向があるのは皮肉です。これらの話は、逆説的なことを言ってHPをご覧の皆さんを振り回しているわけではありません。今までテレビや雑誌・素人向けの健康雑誌などから得た「通り一遍の知識」を捨て、真っ白な頭にして、身体の反応に耳を傾ければ、答えは見つかるはずです(「甘いものを食べたい」「運動したくない」などの不埒(ふらち)な欲望=不自然な欲求、を除きます)。「生命の神秘」とはよく言ったもので、我々の身体は人間の知恵をいくら振り絞っても追いつけないほどの精巧さで出来ています。

〇高齢者介護施設では上図Bの人が多い
ちなみに、過日、ある高齢者介護施設で多くの人が不調を訴えました。それを受けて、御上(おかみ)が「空気の乾燥が原因」と発表しました。これは上図Bの人が圧倒的に多かったからです。Bにあてはまる人が少なければ、乾燥だけで体調が悪くなることはありません。「人間は皆同じだ」とばかりに、上図@の人までが水分を余計に摂るのは間違いであることは、いうまでもありません。

〇虚弱体質者が救われる道
以上のようなことは、東洋医学では常識です。2000年位前の中国の文献にも出ていますから、昔の人はよく知っていたのでしょう。しかし、西洋科学万能の現代では、こうしたことは科学的根拠のないデマにされてしまいます。それでは虚弱体質で冷え性の方や、水分代謝がうまく働かない人は、救われる道がありません。冷え性の方を対象にして儲けようとしているビジネスもありますが、お金を出して何かをしても、生活習慣を改善しなければ本末転倒です。といっても、冷え性の方に書かれた本などを見ると、執筆者の施術所や健康食品の宣伝ばかりで、実践性に欠けるものがほとんどです。私のつたないよもやま話において、生活習慣の注意点を述べたいと思いますので、患者さんはじめ月経トラブルでお悩みの方は、少しでも試して頂ければありがたいと思います。

〇適度な摂取が大切、適度な摂取量を知るには感覚で考える
ここで述べたことは、「水分は摂らない方が良い」ということではありません。「人によって摂取量は違うので、自分に見合った量を適度に摂取することが良い」ということです。極端な例として、真夏の炎天下などでは、どんな人でもノドが乾く前に先んじて摂取しないと衰弱してしまうのは当然です。つまり、「水分を余計に摂らないと毒」という固定観念に振り回されるのではなく、感覚で考えれば良いのです。冬にトイレが近かったり、水分を摂りたくならないのであれば、摂取量はもう少し抑えて良いわけですし、暖房の効いた部屋にいて唇やノドが乾くのであれば、少し摂取すれば良いわけです。、ただし、総じて冬季は無理に水分摂取をする必要はありません。過剰に摂取すれば冷えに回ったり、水分代謝異常による症状に陥ります。「過ぎたるは及ばざるが如し」は水分摂取にも当てはまる、というわけです。冷え性の方や舌が腫れぼったくて歯の跡がついているような方は、注意しましょう。

(2009.04記)

月経 異常トップ よもやま話 @胃腸・吐き気 型 Aイライラ型(PMSなど) B冷え性 型 原因 相互リンク募集 痛み 前症候群 生理不順 無月経 閉経期
Copyright(C)2005-2012  Nagashima Acupuncture Moxibustion Room(Tsutomu Nagashima)