〇自然の生態系は精巧にできている・・・ということを最近よく耳にします。ある種類の生物を意図的に増やすだけで、自然界の生態系は乱れるそうです。科学が発達するにつれ、”普通に考えて当たり前のことが、科学的にみても当たり前”という結論に近づきつつあるように思います。我々は、科学的根拠があるか否かを正当性の根拠としてきましたし、今もそうしています。つまり、科学的に立証できないものは迷信で、立証できるものは正しい、という考え方です。しかし、本当にそれでよいのか・・・と考えてみる時期に来ているのではないでしょうか?
〇前出のとおり、大自然の生態系は人間が手を加えない状況を最も理想とします。しかし、それだけでは人間が生きにくい環境にあるため、昔の東洋圏域では必要最低限のレベルで手を加えてきました。その結果、生態系は健全な状態を保ってきたわけです。しかし、西洋的手法を万能とする考え方が入ってきて、人間の欲望に従って恣意的に自然をいじくり回すようになってから、メチャクチャになっていきました。大規模な開発を行う時には、科学的に検証して異常がないことを踏まえた上で行ってきましたが、科学では測れないものが大半であったため、自然環境はメチャクチャになってしまいました(参考:生態系と生命力)。
〇このことを踏まえ、我々人間の体内の生態系についても、深く考えるときが来ているように思います。我々は健康診断を受けます。そして、その検査結果一つひとつについて、”〇〇が少ないからもっと多くしなければならない”など詳細な対策を提示されます。これらのデータは部分部分に細かく切り砕いた結果であり、体内の生態系全体を見渡した結果ではないことに留意すべきです。例えば虚弱体質者の場合、「善玉コレステロールが少ないから、もっとコッテリしたものを食え」と言われることがあります。真面目な人は言われたとおりにします。そして、食べたくもないのに無理矢理に胃袋に詰め込んだ結果、生命力を弱めてしまう例が後を絶ちません。忘れてならないことは、”善玉コレステロールが少ないのは、食べる量が少ないことが原因ではない”ということです。脾力(≒胃腸の力)が大きい人は、食べたものを栄養に変える能力に秀でていますから、たとえ食べる量が少なくてもそのようなことにはなりません。”虚証の人と丈夫な人では、内臓の力が根本的に違う”という事実を認めなければなりません。胃腸の不調だけならまだよいのですが、体内の生態系全体のバランスを無視して、個別の検査結果にばかりこだわり、ムチャしすぎることによって、病名のつく病気になった人もいます。これらのことは、患者さんご本人からお聞きすることがあります。このような状態に陥ると、患者さんもご自身の日常生活を深く追求するようになりますから、科学的には立証できなくても、患者さんご本人はよく分かっていることがあります。
〇食事で摂取するのであれば、まだ良いのですが、不自然な形で健康食品を必要以上に詰め込んだり、西洋的手法で特定の種類の成分だけを無理矢理に増やせば、発症しなくてもよい症状に陥ることがあります。大自然の生態系ですら繊細にできているのですから、体内の生態系ともなれば、もっと緻密であることは想像できるでしょう。科学至上主義の陥りやすい欠点でありましょう。我々は、大自然を壊してきた反省をきちんとしていないと思います。”自然は大切に”・・・上っ面な言葉が独り歩きしていますが、昨今の風潮を見ていると、自然について心底真面目に考えているとはいえないと思います。自然について真面目に考えていないから、生物の体内の生態系についても真面目に考えようとしません。私自身もそうです。私自身も自然環境について心底真面目に考えているとは到底思えません。ただし、人間の体内の生態系については、職業柄、真面目に考えざるを得ません。そういった意味では、平均的なレベルよりは少し真面目に考えている方だと自負しています。
〇私は西洋的手法について、偉そうに批判的なことを述べています。しかし、それは”西洋的手法は極めて優秀である”という前提で述べているつもりです。西洋的手法が優秀であることは疑いようがありません。私の考えでは、”たとえ体内の生態系を犠牲にしてでも、西洋的手法で無理矢理に押さえ込まなければならない”という事態に至ったら、西洋的手法に身を委ねるのが基本だと思っています。逆に、そうでもないのに深く考えもせずに、「まぁ、やっておくかな」程度で体内の生態系を乱すのであれば、それは考え直すべきだと思います。「旅行に行くのに生理がきたら面倒だから、西洋的手法で生理が来ないようにしよう」といった軽い気持ちで生態系を乱す方も多く、その結果、月経トラブルが発症して、それまで鍼には目もくれなかった人が、鍼灸施術を希望するのには驚きです。そのような方にはハッキリと施術をお断りしています。逆に散々悩んだ挙句、やむにやまれない事情で西洋的手法に委ねるのであれば、それを批判できるほど私は偉い人間ではありません。私が患者さんの立場であれば、きっとそうしていたと思うからです。
〇科学一辺倒で凝り固まった思考は、体内の生態系を乱し、発症しなくてもよい症状を誘発することにもなりかねません。そして、それは科学的には立証できないことがほとんどです。体内の生態系は微妙なバランスの上で成り立っています。ご自身の生命力を大切にしたいのならば、特定の物質を無理矢理に増やすことについて、どのような意味があるのかを深く考える必要があるでしょう。生命力の運用は軽いノリでみだりに行うぺきものではありません。お金よりも大切な生命力の運用なのですから。
(2010.08記)
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