「冷え症」の分類-月経トラブルよもやま話

〇女性には自称「冷え症」が多く存在します。女性は下焦(胎児が宿る所)を冷やさないように、冷えに敏感にできています。ですから、男性では感じない程度の冷えでも敏感に感じ取ります。そのことも自称「冷え症」が多い原因のひとつです。 

〇別の理由としては、「冷え」で収入を得ている人たちの宣伝文句に洗脳されていることです。「冷え」が収入に結びついている人たちは、意外に多いのです。健康食品・健康衣料・サプリメント・〇〇酒・漢方・鍼灸・整体・マッサージなど、挙げたらきりがありません。「冷え」についての情報を流しているのはこの人たちです。「冷えが原因で病気になる」「冷えが原因で肥満になる」など、「冷え」を大きな収入源としています。

〇先日、当鍼灸室にお来しになった患者さんで「漢方薬局で冷えが原因といわれて、処方してもらった。しかし、効果が薄かった」とおっしゃった人がいました。体質を診ると、冷えの証は示していませんでした。そこで、イライラ型として施術したところ、間もなく良い結果がでました。もし、この時に冷え症タイプとして施術していたら、良い結果は出なかったでしょう。この患者さんに「原因は冷えではありません。気滞血オといってストレスが元で気がうっ積していたのが原因です。手足が冷たいのも、気血が末端まで行かないからです。」と説明したところ、「冷え切っているのが原因だと思っていた。女性は冷え切るのが原因で生理痛になると思っていた。」とおっしゃっていました。漢方でも気滞血オとして処方していたら、もっと良い結果が出たと思います。

〇冷えが強調される原因は他にもあります。それは「冷え」といえば患者さんにとって理解しやすいという点です。例えば、肝気欝結型の月経前不調の人がいたとします。「あなたは肝気欝結型の月経前不調です」といっても、患者さんにとって理解できるはずがありません。(患者)肝気欝結って何ですか?(鍼灸師)肝の通りが悪くなることです。(患者)私は肝臓は悪くありません。検査で正常値ですし、健康診断でも指摘されたことはありません。・・・という会話になってしまいます。こんなとき、「肝気欝結」について正確に説明しようと思えば、「肝とは・・・」という説明から始めなければなりません。しかし、この患者さんに「冷えです」といえば、すぐに理解してもらえます。「冷え」が全くない人などはほとんどいませんから、間違いではありません。「冷え」とは便利な言葉です。しかし、「冷え切っている」と誇張して言った場合、腎陽虚や寒凝血オでない限り、それは誇大表現になります。しかし、患者さんには分かりませんから、「冷え」を信じることになります。

〇冷えにも種類があります。冷えの深さで区分します。
@脾(胃腸)の冷えで止まっている場合
 五行色体表 の五主における肌肉(比較的浅いところ)で止まっているので、自覚症状もあり表面的に冷えてはいても、骨の髄までは冷えていません。もちろん、今後深いところまで冷えないという保証はありませんので、冷えには気をつけたほうが良いと思います。「冷えに気をつける」とは、「身体をを冷やさない」というよりも、「腎や脾を傷つけない」ことが大切です。たとえ、身体を冷やしても腎や脾を傷つけなければ、骨の髄までの冷え性にはなりません。「腎を傷つけない」とは、早寝・運動・正しい食事の3つの要素を守ることです。「身体を冷やすと冷え性になる」などという単純なものが全てではありません。身体は複雑怪奇です。

A気血のうっ積により手足が冷える場合(肝気欝結など)
 すでに説明しましたので、省きます。

B骨の髄まで冷えている場合(腎陽虚などによる真の冷え)
 女性の自覚症状はときには当てになりません。「骨まで冷える」といっている人が、実はそうでない例は多く存在します。そういう人は、@に当てはまる場合がほとんどです。骨の髄まで冷えている状態とは、腎陽虚による精神症状が伴う場合が多いものす。これは五行色体表では五主の骨に当てはまります。つまり、東洋医学的には腎の問題です。腎は最も深いところにあり、五臓六腑の土台です。その土台が侵されるわけですから、患者さんは大変です。このタイプ(腎陽虚)とは冷え性型に当てはまり、声に力がない・生命力減退・虚弱体質・普段からジワーッと重い腰痛・うつ・引っ込み思案・将来への恐怖・胃腸虚弱など、極度の生命力減退がともない、普通に生きていくのも大変な人たちです。このような人からみたら、@の冷え性の人がうらやましいでしょう。しかし、悲観的に考える必要はありません。毎日の摂生と鍼灸の積み重ねで改善していくでしょう。(月経トラブルに限定すれば、もっと早く改善すると思います)。

〇実は私もあることが原因で、Bの冷えになったことがあります。冬に厚着をし、その上にタウンジャケットを着たらファスナーが閉まらずに、仕方がないから一つ大きいサイズのタウンジャケットを買ったことがあります。普通のサイズのタウンジャケットと、1つ大きいサイズのタウンジャケットを重ね着したこともあります。このときは最悪でした。朝の電車の中では、タウンジャケットを2枚着ても震えが止まらずに、どうして良いか分かりませんでした。真夏の炎天下の暑さも異常ですが、このときの真冬の寒さの方がたいへんでした。最もたいへんなのは精神症状でした。これは筆舌に尽くしがたいものでしたので、ここでは書けません。おそらく、冷え性 型の月経トラブルに悩む人の中には同様の人がいるでしょう。ちなみに、ある病気(現代医学ではよく分かっていない。東洋医学的には極度の腎陽虚)の重篤な人で、真夏に電気毛布に包まっていても震えが止まらない人も実在します。冷えの極みとは実に恐ろしいものです(普通はそこまで重篤化しないのでご安心を・・・)。しかし、私自身も重篤な冷えの人も、毎日の摂生の積み重ねで改善しています。

〇施術による改善で冷えが前に出てくる場合があります(実=不必要なエネルギー蓄積、虚=エネルギー不足)。
 これは、(虚)脾の虚(=冷えを伴う)と、(実)肝うつ気滞(気の滞り)や痰湿(余計な水分などの滞り=甘いものの過食によるものが多い) などが同時に存在している場合です。施術をしていくと、先に(実)肝うつ気滞・痰湿などから取れてきます。これらは、不自然な熱を発しやすいために、もともとあった(虚)脾の虚を隠しています。施術によって(実)肝うつ気滞・痰湿が除去されると、元々あった(虚)脾の虚が前に出てきて、冷えが目立ってくるのです。2〜3つあった身体の問題点が1つに減ったわけですから、改善したに決まっています。しかし、ご本人は冷えを自覚するようになるため、「冷え症になった」と錯覚する人もいますが、身体はそれほど単純なものではありません。過敏体質の私は、このような身体の変化を日常的に自分の身体で味わっています。

〇便秘も、(実=硬)肝うつ気滞や痰湿が除去されれば改善されます。鍼灸や生活習慣改善により気血の通りがよくなり、不必要な熱を持たなくなるために、お通じもスムーズに排泄されるようになります。元々、根底に(虚=軟)脾の虚があるわけですから、便も軟らかい方向に進みます。また、尿の回数が増えることもあります。同様に(実)が除去されれば、体内に不必要な水分がたまらなくなるので、体外にスムーズに排泄されます。根底に腎の(虚)がある場合、本来は頻尿傾向にあるはずが、(実)が邪魔して隠れていたわけです。(実)が除去されると(虚)が前に出てくるので、頻尿傾向になるわけです。これも、改善されていることを意味します。もちろん、根底に脾や腎の虚がなければ、冷え・軟便傾向・頻尿傾向にはなりませんが、(虚)が全くない人の方が少数派です。

〇「身体が冷え切る」という表現は、腎陽虚の場合がほとんどです。寒凝血オが単独で成立することは少ないでしょう。単に身体を冷やしただけでは腎陽虚になりません。先天的な腎虚体質に加え、後天的な要素が加わって腎陽虚になります。「寒く感じるから身体の芯まで冷えている」「薄着でいられるから冷えていない」などという単純なものではありません。身体が芯まで冷えていても、別の熱が同居している場合、冷えが隠れてしまうので感じにくくなります。逆に、身体が芯まで冷えいなくても、不必要な熱が存在しないと冷えを自覚します。「冷えを感じるから冷え切っている」などという単純なものではありません。顔色、声の質や力、怒るパワー、脈、腹診、背候診、ツボの状態、入浴後の感覚などを総合的に診て「冷え切っているか否か」の判断を下します。たった1つだけの要素で診断したら、間違った判断を下しかねません。我々施術者は、患者さんの主張を尊重する必要はありますが、鵜呑みにしてはいけません。この事は今後も注意していきたいと思います。

〇企業や利益団体は、自分たちにとって都合の良い情報を意図的に流しています。毎日、テレビで放送されている健康食品や健康番組がそうです。人間と同じように食べ物にも長所と短所が同時に存在していますが、そのうちの長所だけを取り上げてことさら誇大に広告します。「この食べ物はこんなに良い」という健康番組は毎日放送されていますが、「この食べ物はこんなに悪い」という健康番組は存在しません。長所だけを過大に強調することが不自然であることは、すぐにお分かりになるでしょう。「この食べ物はこんなに悪い」などという放送をしたら、関係する方面から大問題にされます。鍼灸も例外ではありません。鍼灸院も患者さん獲得のため、通常の冷え症であっても、「こんなに冷えている」などと、少し大げさに言って脅かすようなまねをしているところもあります。賢い皆さんはそんなことには惑わされずに、ご自分の感覚で考えてだまされないようにしましょう。そして、私たち鍼灸施術所も、患者さん獲得のための誇大な言い回しを厳に戒める必要があると思います。私も肝に銘じたいと思います。

(2008.03記)

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