しっかりとしたアプローチと微妙な調整

〇西洋薬には作用が強い・弱いなどの区別があり、その薬が患者さんに合わない場合に調節が必要なことは、皆さんご存知のとおりです。一番最初からピッタリと合う薬を処方してくれれぱ良いのですが、お医者さんも神さまではなく人間ですから、最終的には患者さんの反応をみて、合う・合わないを決め、合わない、若しくは強すぎる・弱すぎるなどの場合は、違う薬を処方してくれたりもします。

〇これは、漢方薬も同じだそうです。例えば腎陽虚で水を捌けない人向けの代表的な方剤として、真武湯(しんぶとう)という薬があります。寒・熱・虚・実に分ければ、寒証かつ虚証向けの方剤です。この薬には、冷えを改善するために附子(ぶし)という成分が入っています。通常はごく微量ですが、それでも冷えが改善しない場合、附子の量を増やしていきます。漢方家によって違いますが、10倍くらいの量まで増やすこともあると聞きます。その結果、増やしすぎると咽喉(のど)が渇いて仕方なかったりイライラするため、量を減らすわけです。つまり、患者さんの改善状況をみながら、成分を調節していくわけです。最初に「これくらいかな?」と思う分量、または教科書どおりの分量を配合してくれますが、漢方家も神様ではありませんから、100%の確率で的中するわけではありません。最終的には、患者さんの状態をみながら調節していくことになります。これが漢方(煎じ薬)本来の醍醐味であり、職人技なわけです。

〇実はあまり知られていませんが、鍼灸も同様の調節が必要になります。例えば生理痛が酷い人の場合、イライラ型と胃腸型が同居している場合があります。このとき、イライラを主なターゲットにして、胃腸を副次的にもってくるか、または、胃腸を主に改善して、イライラを副にもってくるかを迷う時があります。質問票の内容・舌・脈・ツボの状態などを総合的に判断しても、まだ、迷う時があり、最終的には患者さんに施術してみて、その反応を伺わないと分からないのが実際のところです。ない頭を振り絞って粗相(そそう)のないように施術しているつもりですが、100%ピッタリと的中するとは限りません。最終的には、患者さんの改善状況をみて調節することも必要になります。

〇もうひとつ例を挙げてみます。今度は排卵〜生理前の精神神経症状(生理前症候群)です。メカニズムでもご説明したとおり、月経の前には肝気が高ぶる(実の症状)ため、イライラなどが酷く出ます。この肝気の高ぶりを抑えれば(実を瀉す)、意外と簡単に改善します。しかし、肝気の高ぶりを抑えた(実を瀉した)結果、PMSや生理痛は改善しても、逆に低くしすぎて、今度は月経が遅れることがあります(虚が出てきた)。この場合、今度は肝気の高ぶりを適度に抑える(実を瀉す)と同時に、お灸などで腎と脾を高める(虚を補う)施術をすると、月経が元の周期に戻ります。これが鍼灸の調節であり、やはり職人的資質が必要とされます(これは虚と実が同じくらいの割合で同居している人の場合であり、単純な実証のPMSや生理痛であれば、スッキリして終わりです)。

〇鍼を刺す深さ・捻り方・抜き方・ツボの位置・呼吸との合わせ方・灸と併用するか・・・など、挙げていったら切がないくらい様々な要素が絡んできます。私の鍼灸の特徴は、体内の深い所までしっかりと浸透するようにアプローチすることです。そのため、逆にいえば効きすぎることもあります。その場合、次の施術では効きすぎた部分を補正していくことも必要となります。これが私の鍼灸施術の実態です。効いているのかいないのか分からないような曖昧な内容の施術の場合、効きすぎて違和感が出ることもないかもしれません。ただし、そのような施術は受ける意味があるのかさえ疑問です。私は一期一会の精神で”もう二度とこの人に会わなくても良いように・・・”と思いながら、1回の施術で改善することを目指して施術しているつもりです。それでも、100%の的中率ではありませんので、次回の施術で調整することが必要になることもあります。嘘やきれい事やセールストークで塗り固めるのはイヤなので、今回はそのことを白状しておきたいと思います。

〇鍼灸を受けに来る方は、病院での西洋医学的な治療→漢方薬→(人によっては整体)→どうしようもなくて鍼灸・・・という人がほとんどです。つまり、どこへ行っても満足な結果を得られずに、仕方なく勇気を奮って鍼灸の敷居をまたぐわけです。こうした方々に、通り一遍(とおりいっぺん)の施術をしたところで、たかが知れています。西洋薬にも匹敵する位のきちんとしたアプローチをして、しっかりと改善することが求められているわけですから、”可もなく不可もなく”では困るわけです。

〇世の中に出回っている上っ面(うわっつら)の情報や、セールストークはきれい事のオンパレードです。体験談では「こ〜んなに良くなりました」とする内容しか記載されていません。しかし、現実はきれい事だけでは済まないことを、皆さんは実社会の中でイヤというほど経験されていると思います。今回は夢を壊すようなことを書いたかもしれませんが、生理痛やPMSがほとんど発症しない状態まで持っていけることも普通にありますし、年単位で止まっていた無月経を改善させられる可能性が高くなってきたことも、また事実です。鍼灸師は水鳥のようなものだと思います。水面上では涼しい顔をして施術しているかもしれませんが、水面下ではバタバタと色々な計算(寒・熱・虚・実・刺激量など)をしているのが実情です。東洋的なことについて深く知れば知るほど、色々なことを考えるようになります。そして、水面下での計算や駆け引きの中に、ある程度の調整の余地を考慮しながら施術しなければならないことを白状しておきます。


*深い部分に強くアプローチするとは、「太い鍼を刺す・深く刺す・痛く刺す・熱く据える・・・」のとは意味が全く違います。当方で刺鍼する深さは浅く、腹や背中については3mm以内です。また、鍼の太さは最も細い鍼OR2番目に細い鍼を使用しています。なお、灸は肌に直接は据えず、緩和紙の上に据えています。

(2011.1記)

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